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  鴎外の址を訪ねて

 森鴎外の旧宅が、地下鉄千代田線千駄木駅から徒歩3分、鴎外文学ゆかりの団子坂をのぼったところにあります。

観潮楼址

 昔は、この坂の両側に菊人形の店が立ち並び、そこを訪れる客相手に団子を売る店が繁盛したとのことです。

この旧宅の二階の書斎から東京湾が遠望されたことから、鴎外がこの家を観潮楼と名づけました。

現在は、区立鴎外記念本郷図書館となっています。1階には鴎外記念室が設けられており、鴎外の自筆原稿、手紙、日記や鴎外の作品が掲載された雑誌、鴎外愛用の身の回りの品々などが展示されています。


観潮楼の庭
観潮楼の庭

 鴎外記念室の外にはさほど広くない庭がありますが、これは鴎外が住んでいた当時の観潮楼の庭を復元したものだそうです。
軍医総監も務めた鴎外の家の庭としては、質素でこじんまりとしたつくりでした。

鴎外記念室に、作家永井荷風が観潮楼の庭の花について書いた額が掲げられていました。
荷風は、観潮楼をしばしば訪れていたようで、荷風の日記『断腸亭日乗』に鴎外が晩年病気になり、やがて亡くなって葬式を行う様子が記録されています。

鴎外は優れた歌人でもあり、この観潮楼でしばしば歌会を催しました。その席で、鴎外が一番になることが多かったそうです。石川啄木がその歌会に参加したこともありました。

レリーフ
鴎外のレリーフ

 鴎外記念室の入り口の壁に、鴎外のレリーフが置かれてありました。確か、昔の郵便切手にこのレリーフの写真が使われていたような記憶があります。

鴎外記念室の中は、残念ながら撮影禁止でしたが、鴎外が、アンデルセンの小説 『即興詩人』 の翻訳により読者人気投票で翻訳家第1位になったのを記念して出版社が作成した鴎外の石像がありました。

鴎外が執筆に使った文房具、筆、すずりや著作の初版本なども陳列してありました。

また、優れた歌人でもあった鴎外が残した色紙もたくさんありました。

最近ある文学者が、新聞のコラムで、「戦前生まれの文学愛好者で、鴎外の即興詩人の華麗な雅文に感激した経験のない者はいない」と書いているのを見かけました。まさに私などもその一人です。
アンデルセンの小説 『即興詩人』 はもちろんデンマーク語で書かれましたが、そのドイツ語訳をドイツ語に極めて堪能であった鴎外が目にし、和訳しました。
デンマーク語をまったく知らない私にはわからないことですが、識者は、アンデルセンの原作より鴎外の和訳のほうがはるかに文学的価値が高い、という意見で一致しています。

私も、十代に 『即興詩人』、『ヰタ・セクスアリス』 などを読んで鴎外の文章力に感激したのを、今でもはっきり覚えています。
作家・詩人の佐藤春夫は、鴎外文学について次のように書いています。
しかし初期の三部作は文學史的な作品として、また 『即興詩人』 は原作にまさる創作とはいへ、やはり飜譯だから除外するとして、自分は 『澁江抽齋』、『雁』 、それに 『ヰタ・セクスアリス』 を加へた3篇をあげたいがどうであらうか。
私としては、『即興詩人』 も明治以降の日本文学を代表する文章家鴎外の記念碑的作品として加えたいのですが、皆様はどう思われますか?

夏目漱石旧居址
夏目漱石旧居址

 本郷界隈は文学者の旧宅などが多く、東京切っての文学散策コースとなっています。まさに文京区の名にふさわしいコースで、区が設置した案内、解説のためのボードなどが随所にあり、それらをたどって散策するのも楽しいものです。

「猫の家」として知られる夏目漱石の旧居址も、観潮楼址のすぐ近く、つつじ祭りで名高い根津神社の裏にありました。
旧居址といっても現在はマンションが建っており、その横に写真の解説ボードが置かれているだけです。碑文は川端康成さんの筆で書かれていました。

その横の塀の上には、「猫」の銅像がうずくまっていました(^_^)。

また、シェークスピア全集の翻訳で有名な文学者坪内逍遥も、このすぐ近くに住んでいました。坪内逍遥は、鴎外と文学上の大激論を繰り広げましたが、実生活ではご近所さんだったのですね(^_^)。

蓮 池
蓮 池

 夏目漱石の旧居址から、これまた鴎外文学とゆかりの深い根津神社を通り抜けて不忍通りを下がっていくと、やがて左側に不忍池が見えてきました。
その近くで、通りの右側に湯島の方角にのぼる坂道があります。これが鴎外の小説『雁』に出てくる無縁坂です。

無縁坂の前を通り過ぎて、道路左側の不忍池のほとりに向かいます。ここも、明治以降の文学作品によく登場する場所です。

夏には華麗な花を咲かせた不忍池の蓮も、年末には写真のように水面に枯れた蓮の茎だけが残った状態となります。この池は北方から渡ってくる水鳥の格好な越冬地になっているということで、この時期はたくさんの水鳥でにぎわいます。

      枯れ蓮や 
        鳥は池面に
          浮きしまま 

鴎外の小説 『雁』 の最後のほうで、主人公岡田がこの池の雁に石を投げたら、雁に当たって死んでしまった、その雁を下宿に持って帰って鍋にして食べようと友達と相談するというくだりがあります。現在なら、とんでもないことだと東京都や動物愛護団体からつるし上げられます。

でも私は、妻と一緒に、雁の群に石のかわりにえさを撒いてやりました(^_^)。雁がえさをとろうと大きな口をあけると、口の中が赤いのがみえました。




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