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  中村汀女

 中村汀女は、俳句を現代の女性の間にこれだけ普及させた功労者の筆頭といえましょう。汀女の俳句は、以下にご紹介する作品に見られるように、女性らしい繊細で気品のある表現と暖かい叙情性に特色があります。それにより、新聞やテレビの俳句欄で多くの女性ファンをひき付けてきたのです。

汀女の句碑
汀女の句碑

 中村汀女は、結婚後世田谷代田に住んでいたということで、世田谷区に地縁がありました。汀女の旧宅に近い世田谷区立羽根木公園の中に、有名な「外にも出よ」の句碑があります。

  外にも出よ  
      ふるるばかりに 
          春の月   中村汀女

世田谷区南烏山にある世田谷文学館にも中村汀女のコーナーがあり、やはりこの「外にも出よ」の句を解説してありました。

中村汀女は、明治33年(1900年)に熊本に生まれました。九州の女流俳人というとまず杉田久女の名が思い出されますが、汀女は久女より10歳若い世代です。
汀女が俳句をはじめたころ、久女は俳誌 『ホトトギス』 上で次々に優れた俳句を発表しており、天才と称えられていました。それらの俳句に感激した汀女が小倉の久女にファンレターを送ったところ、久女から目を奪うばかりの見事な筆跡の返信が来て汀女は驚嘆したそうです。

汀女は、熊本県立高等女学校を卒業後結婚し、やがて東京に出てきました。その後虚子の娘星野立子とともに虚子の指導を受けるようになり、めきめきと俳句が上達しました。

かわせみ
かわせみの俳句
 翡翠(かわせみ)の 
   掠(かす)めし水の
     みだれのみ  中村汀女
水の中に飛び込んで小魚を捕らえるので知られる小鳥かわせみは、大変な勢いで飛ぶので、「ぶん」という羽音がするそうです。
その羽音に気がついて水面を見ると、すでにかわせみの姿はなく、かわせみが掠めた後の水面のみだれが見えるだけであった、という俳句です。

思わず胸をうたれるような瑞々しい感性ではありませんか。

余談ですが、最近かわせみが都内の公園などの水辺でよく見られるようになったとのことです。水質がきれいになってきたのと、公園関係者やボランティアの皆様のご努力が実ったためでしょう。私の家の近くにある馬事公苑では、かわせみが早朝にきて池の金魚を獲ってしまうので困るとこぼしていました(^_^)。

コスモス
コスモスの俳句

 汀女は、花をこよなく愛したと言われます。確か新聞の投稿句だったと思いますが、次の俳句を見たことがありました。

  秋桜(コスモス)や  
      汀女の母校を
          訪ねけり 日経俳壇?
女性の俳人の作と思われますが、汀女に対する敬愛と汀女俳句の原点である熊本高女を訪ねた喜びとが素直に詠まれています。

熊本高女の後身である学校には、現在も大きな花壇があるそうです。

菖蒲湯
菖蒲湯の俳句

 男の子の節句五月五日に菖蒲を束ねてお風呂に入れると、悪霊を除き邪気を払う効果があるとされます。その菖蒲湯を詠んだ汀女の俳句です。

  沸きし湯に
      切先青き
          菖蒲かな   中村汀女
中七「切先青き」が、男の子のイメージに合っていて実に爽やかです。

子供に対する暖かな愛情とともに、凛とした気品を感じさせる名句です。

曼珠沙華
曼珠沙華の俳句
  年ごろの似て
      かえりみて
          曼珠沙華    中村汀女
秋の彼岸にお墓参りをしたときのことでしょうか、すれちがった女性が自分とほぼ同年齢であるのに気がついて思わず振り返ってみると、その女性の向こうに曼珠沙華(まんじゅしゃげ)が鮮やかに咲いているのが見えた、という俳句です。

女性は同性を観察するといいますが、そういう女性ならではの俳句で、男性ではこのような発想をすることすらできません。

下七「曼珠沙華」の華やかさは、女性の内面にある情念を感じさせます。




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